うらうらと雪間の上の水蒸気

頑固な雪が消え黒土が覗けば嬉しい。
こうなればもうシメたものである。誰がなんと言おうと春なんである。ここまでのなんとまあ、嫌らしく苦しかったことか、筆舌に尽くし難し、と推量する。何mと積もった雪が、どこへ行っちまったのか、あっけらかんと無くなってしまうのが不思議だ。
積雪の表面が陽に炙られて溶けてしまうとばかり思っていたが、実は地面が温ったまってそこに接している雪が水となって消えてしまうらしい。そういうことはだいぶ後になって教えられたことで、まず何ごとも教えられなければ知らないまま通過していたなあ。
雪国の雪が消えたら、春は怒涛のように一気呵成に押し寄せる。残雪の間から蕗の薹が立ち上がり、カタクリが可憐な花を春風に揺らす。と見る間に、木々が柔らかく芽吹き、梅、桜、桃、いちどきにわらわらと咲きだすから忙しい。
この時期の雪国は言わんかたなく美しい。ブナの新緑が陽ざしに煌めき、雑木のもえぎ色の新芽は山肌を埋め尽くし、野から山から水蒸気が立ちのぼり春霞となって棚引く。しかしそれもほんのひとときの美しさ、日に日に緑は濃くなってゆく。
この美しさを身をもって堪能するには雪国に住まわねばならない。それは余りにモシンドイ、ちょこっとだけ旅行で、というのはたぶんムシがよすぎる。そのときだけちょこっと、ではその風景の空気感も含め、なにも分からないのではなかろうか。
暖地でぬくぬく暮らし、美しい時だけ雪国に、と言う巧い話は、おそらく神も仏の許さないことなのかもしれない。多くのこの世の物事はどっちかであって、両方いっぺんに、という甘い儲け話は通じないに違いない。
儲け話にトント縁がなかったなあ!
.