花よりも野蒜の根こそ嬉しかれ

野蒜に花が咲くとは知らなかった。
野っぱらを歩くのが趣味だけれど、ついぞこの花に注意を向けたことがない。野蒜と言えば、根っこを掘り出して(それも小さなちいさな球根だ)、それに味噌を塗ってから、あんぐりと口にしてビールを呑むことしか頭になかった。
歩いていて、運よく根を掘出す道具を持ち合わせることは、まずない。たまたま傍に棒きれなどがあればいいけれど。それにしても、この根っこは、ほとんど豆粒ほどの大きさしかなく、親指ほどのものを採るには、よほど太い葉っぱを見つける必要がある。
そういうことで、タダの野蒜でビールを呑もうとするのは、これでなかなか大変なのだ。川原の土手などに座り込んで、熱心に掘出し作業にいそしむ。人が見てれば、バカだと思われる。しかしこっちは、バカでも何でも構ったことではないだ。
たまたま運よく、親指ほどのものが2,3粒採取できればもう満足。小さな粒も一緒にそのひと掴みを、いそいそとビニール袋に葉っぱごと押し込んで、さも大事そうにリュックの中に仕舞い込み、にんまりとする。さあ、これで今晩のビールが死ぬほど待望される。
ところが帰宅してからがまた大変なのだった。山の神様は屁ほども関心がなく、自らなんとかしなくてはならない。まずそのひと掴みを水でよくよく洗って汚れを取り、しかる後に葉っぱを2cmほどに刻み、根っこに味噌を添える。
そして根っこを、あんぐりすれば、まずピリピリと辛い。その後からニラのような臭いが鼻に抜ける。そこへ待望、ビールをぐびぐび、ぷっはあ~~、野趣満点である。たまにはこういう野趣を味わなければならぬ、と独りよがりに思う。
野良暮らしの記憶がよみがえる。
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