秋の暮れそばを相手のひとり酒

蕎麦をつまみに飲むのがまたいい。
以前はよく、一日中歩いた果てに蕎麦屋に立ち寄って一杯引っ掛けたものだった。ちょうど、かすかに腹も空いていて、盛り蕎麦をおつまみ代わりにして飲んだ。おつまみを別に頼めばいいじゃあねえか、だがこれで充分幸せなんである。
歩き疲れた体に酒がよ~く沁みるようであった。そしてつるつると喉を通る蕎麦がいい按配であった。体のこわばりが溶けて流れていくようであった。今日歩いた道のりを思い出しながら、なんとまあ、安上がりな歩きの打ち上げであろうかと、しみじみ思った。
こういう時に飲む酒は、ここはどうでも日本酒でなかればならないようだ。日本酒を一人しんみり、という按排がいいようである。ワインやハイボールではどうもこの”しんみり”というのが効かないようである。なんだか浮き浮きになってしまう。
それにまた、ワインやハイボールは西洋式の「横酒」ということになってしまうので、蕎麦という純日本式の「縦めし」に合わない。どだい蕎麦屋には板わさにしろ、海苔にしろ、やっぱり横酒に合う食い物はないようだ。だから日本酒と蕎麦、これは理にかなっている。
とくに秋になると”白玉の歯に沁みとおる”という言葉が自然に湧いてきて、それまでビールやウイスキーなぞ引っ掛けていたものが、急に、やっぱ日本酒だよなあ、という気分になるから不思議だ。日本人だからなんだろうか。
ところが最近、居酒屋などではまず日本酒を飲んでいる人がほとんどいない、と思う。日本人なのに日本酒を嫌うらしい。なぜか? それは日本酒がまずいからに違いない。なぜまずいか? それはいい加減に作るからだと思う。
地方へ行って地酒を飲むと、これはうまい。その地方の山襞にひっそりと隠れたいた、というような地酒を出してもらうと、日本酒、うめえじゃん! ということになる。これはたぶん、昔ながらにまっとうに作った酒なのだと思う。
酒を効き分けるほどの酒飲みではないけれど・・・
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