夏の霧至仏の峰に朝日さす
行き止まりの壁がだんだん近づいて、その先はなんにも見えない。
が、振り返れば、来た道が遥かに遠く見えている。
だから振り向いてばかり。

♪~~遥かな尾瀬 遠い空~~♪
たしかに尾瀬は遥にして、その空は遠い。電車の駅から歩いて、あるいはバスに乗って、ひょいっと簡単に行けるところではない。駅から延々バスで深山に分け入り、駐車場に着き、そこからまた歩いて峠に登り、しかる後、やっと尾瀬ヶ原ないし尾瀬沼に到着する。
この電車やバスでの延々さ加減が遥かな尾瀬のイメージをつくり出す。加えて、尾瀬ははるか山の高みに孤立しいるから、取り囲む山が低いどこか見知らぬ異郷に来てしまったように感じられる。この二要素をもって、尾瀬は遥かでありその空は遠い・・・のだと思う。
至仏を背にして歩き始めると、青い空に真っ白い雲が浮かび、遠くの山の上には入道雲が見える。よく見ると頭上あたりの空は、空気が澄み切っているためか、青いというより黒ずんだ藍色に抜けている。宇宙の暗黒が覗いているのかもしれない。
木道の両脇には、まるで萌え出したばかりのような淡い緑の草が、ずう~と向こうの果ての、低く回りを取り巻いている山裾まで広がって、点々として池塘が空の雲を映している。晴れているのに空気は爽やかで、なんとも心地がいい。
翌朝早く表に出てみると、周り中一面に朝霧が立ち込めて、原っぱは何も見えない。あまりに幻想的な眺めに時を忘れて佇んでいると、至仏の頂上あたりが朝日を浴びてうっすらと浮かんできた。なんという神々しい光景だろう。
尾瀬沼へ登れば、ヒバの緑濃い葉や落葉樹の淡い緑の葉の下に、藍色の水が横たわっていた。近づいていくと、葦や甘草に縁どられた沼は、その静かな湖面に、さざ波もたたない。燧の峰が逆かしまに映っているのをいつまでも眺めていた。
かくて夢は桃源郷に置いたまま、しぶしぶ還らねばならぬ。