たまたま日記

たまにしか書かないに日記         遊びをせんとやうまれけむ   戯れせんとや・・・・

平井川を溯る



 忘日、平井川の岸辺はどげなことになっているじゃろ、と思い行ってみた。


 平井川は、wekiさんによれば、こういう川だ。

東京都西多摩郡日の出町と青梅市の境界にある標高902mの日の出山に源を発する。日の出町、あきる野市を東へ流れ、あきる野市と福生市の境界で多摩川に合流する。秋川や浅川と同じように多摩川の右岸に流れ込んでくる支流の一つである。


 その岸辺は桜(ソメイヨシノ)が眩いばかりであり、エドヒガンらしい枝垂れはまだ少し早かったようだが、ともあれ今年は、春先に咲く花が全員一斉に、せ~の、で咲いてしまったように見える。
 ソメイヨシノが咲いている最中にも関わらず、枝垂れサクラも咲く、桃も咲き、ボケも満開なら、ミツバツツジだって負けじと満開、平年ならこれらは一応の順を追って咲いたり散ったりするのだが、今年は味噌くそ一緒らしい。






 岸辺の細道をソメイヨシノの並木に、蒸せ返りそうになりながら上流へ向かう。ときどき散歩の人と行違うが、みんなマスク着用に及んでいる。人混みでない郊外の、清々しい空気なんだから、マスクは不要だと思うけれど、日本人はまじめ一徹、エライもんだ。
 ソメイヨシノの並木を過ぎると今度は、枝垂れ桜の並木になる。エドヒガンというのだろうろうか、植物の名前(に限らずすべて)をよく知らないので、単に眺めて通り過ぎるだけ。わが無知には、つくづく困ったものだと思う。




 枝垂れサクラが尽きたあたりに小さな公園がある。幼い子供たちを連れた数人のグループが楽しそうに遊んでいる。グループからなるべく離れた場所に座って昼飯のおにぎりを齧る。風があるとも見えないのに、はらはらと桜の花びらが散っている。
 4,5歳の女の子と2歳ぐらいの女の子とが、おばあさんたちに見守られながら遊んでいる。まだ歩き始めたばかりらしい2歳ぐらいの子の、よちよち歩きがとても可愛らしい。なんにでも興味を示し、草原をとことこ歩いて勝手な方へ行くので、おばあさんたちは大変だ。





 公園から少し上流へ行くと、今度は花桃が惜しげもなく満開だった。いつも思うのだけれど、一つの木から赤、白2色の花をつけるのは何とも奇妙だ。だけでなく、一つの花も赤白がまじりあって、どういうつもりだろう。
  今ごろ甲府盆地はどんな塩梅になっているだろうか、とふと思う。うらうらと春霞が棚引く中に、盆地中が薄桃色のだんだらに染まっているだろうか。その花の盛りに、花びらを一つ一つ毟り取っている桃農家の人は、それどころの話ではないだろうけれど。



 


 その辺りから今度は北の丘陵の裾へ行く。道沿いの景色がとても好ましいので、自分勝手に「山の辺の道」と名付けて毎年歩くことにしている。ただ今年は季節が半月か一月ほど先に進んでいるようなので、例年とは違うのだろうな。



 こちらもソメイヨシノが、ここぞとばかり咲き誇っていたが、裏の山肌は萌えだしたばかりの萌黄色の木の芽が、もわもわと柔らかく湧き立つように覆っているのがことのほか美しいと感じる。ミツバツツジも負けずに艶やか。




 
 この時期は、庭や畑に植えられているミツバツツジがぱっと明るく目に飛び込む。この木はもともと山に自生したものを、争うようにして庭に植えられ、山ではほとんど見かけなくなったのだ、とどこかでおじさんに教えられた記憶がある。
 花色が飛びぬけて明るく、軽やかであり、モテモテなのも解るような気がする。秩父のある場所のお寺の裏の岩山が、この花でみっしりと埋められているのを見た時は、ほんとにびっくらこいた。あの岩山は今も無事に満艦飾の花を見せているだろうか。





 「法蔵寺」という禅宗のお寺があって、境内の桜が見事だった。明るい日に照らされて、白い花びらが輝くように浮かび上がる。境内の前方に赤く塗られた小さな観音堂があり、傍の東屋にはらはらと花びらが舞い散るのを見て、遠い昔を思い出した。
 20年ぐらい前だったかと思う。東屋の武骨な木のテーブルに、杖をもった60年配のお婆さんが休んでいた。昼飯を食うためご一緒させてもらったら、問わず語りにお婆さんがしんみりと話し始めた。


 中学を卒業してすぐのころから、大島から東京へ椿油の行商をしていたのだそうだ。肩に食い込む重い油の瓶を背負って船に乗り、下町のお得意さんを回り歩くことを長い間続けたという。若かったから続けられたが、貧しいゆえの苦労が続いたという。東京でお嫁になり、いまは歩行が困難なので、娘のところで厄介になっていると言った。
 戦後すぐのころの話だと思うが、なんだか厳しい苦労話を聞いているようで、苦労らしい苦労を何もしてこなかった、すちゃらか人生を考えると、いたたまれないような気になった。あの時もお婆さんの肩のあたりに、ちらちらと桜が舞い散っていたなあ。
 





 白いソメイヨシノも赤い枝垂れサクラも、桃も木瓜も、芝桜も花大根もみ~んな一緒に咲いて、山には新芽が吹き出した。平井川の岸辺は、来てみたらこげなことになっておった。今年は、季節の楽しみが一緒くたに押し寄せて、この後、みんな一斉にせーので去っていくのだろう。来年は順番に少しづつ来てくれよナ。





 この後、寶光寺の羅漢さんにチクッと挨拶し、好きな場所である日の出町役場の広場で、子供たちが遊ぶのをぼんやり眺め、五日市駅へは行かずに武蔵増戸駅に出て、待ち合わせ時間が30分もあるので憤慨し、もう一駅、武蔵引田まで歩いて、帰ってきた。




 非常事態宣言でも


 オレたちの楽しみは


 結構ある、と思う。


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