屁っ放り虫始末記
一服しようとベランダに出たら何か匂う。
秋の爽やかで清澄な空なのに、異臭が漂う。ん、自身で放った覚えはない。ん、ん、あっ! 屁っぴり虫だ。たちまち脳みその回路が繋がり、いやらしさがこみ上げてきて、同時にこの世の終わりを告げるような、あの匂いを想いだした。
慌てて衣服を払ってみたが、ぽとりともせず、あのにっくき奴がどこに居るのかわからない。匂いはすれども姿は見えぬ・・・恐ろしいようなが気がして、急いで部屋に入り、きっちりと網戸を閉めて、椅子に落ち着いた。が、まだ匂う。しつこい。
なにげなく部屋を見回して、居た! 薄茶色の亀の形をした甲羅を見せて、網戸に張り付き、なんでもないような威張った顔をしている。うぬぅ~~、許せん、断じて許してなるものか、覚悟しろ~、念仏をとなえろ~。
テッシュペーパーを2枚抜き取り、そろりと近づき、えいやっと引っ掴んで包み丸めた。生け捕りであるから奴はまだ生きている。それを持って急いで下に降り、水道の水をじゃあじゃ掛け、ドザエモンにしたうえ台所の生ごみの下に突っ込んで、ようやく一息ついた。
が、引っ掴んだ指に鼻を近づけると、臭え~。身も世もないような、地獄の底から匂ってくるような、いやらしい、下品な、忌まわしい匂いが消えない。背中がぞくぞくしてたまらず風呂場に行き、着ていたものを洗濯籠にぶち込み、シャワーを浴びた。
そうしてやっと落ち着き、子供の頃、こいつに十分に痛めつけられたことを想いだした。面白半分にこいつを捕まえたり投げ飛ばしたりし、そのつど、嫌になるような匂いに辟易し、生涯二度とこいつにかまうのは止そうと決めた。
それからずいぶん長い間、相まみえることもなく、お互いの平和が続いていたのに、ひょっこりとこんな出会いをしてしまった。なにがなんでも、ゴキよりもなによりも、こいつが嫌いであり、なんでも出会えば途端に不潔になるような気がするのである。