山に若葉里は桜の変てこりん
いつの間に山に若葉が湧き出したんだろう? ほえ~~。
多摩川の支流、平井川の桜を眺めたいと思う。川沿いを辿って五日市方面に行く道は、鄙びて静かでとてもいい。そこを日がないちにち、ぽくぽくと歩く。そうすると、引きこもりのこころだって、とろとろと溶けだすというもの。さあ、行ってみよう!
平井川まではいつもの多摩川の土手道、が、すでにしてどこもかしこも桜だらけ。世の中じゅうに桜が溢れ返っている。まるで日本全国(関東以西かな?)桜で埋め尽くされているような按排ではないか! 如何せん!
そんなわけで平井川の河口に到着、なんとまあ、ここだって桜だらけ、いささかうんざりの気分なきにしも非ず。しかしまあ、そよ吹く風にはらはらと散る花びらを、ぼう~~っと眺めるも長閑なもの。長閑で、のんびりで、ぼう~~、ばかりで大丈夫か?
平井川は「日の出山」に源流を発し、「つるつる温泉」の脇を流れ、日の出町を貫流してあきる野市に出て多摩川に注ぐ。これはまあ、草臥れていない清流と言ってもよかろうと思う。周りが静かな田舎だから川が衰弱しないのだろう。
土手に座って休憩する。文字通りの春風が至って心地よい。ふと見ると野蒜がいっぱい出ている。これはビールのつまみに最高、必死こいて掘り出して、10粒ばかり、これは「おみやげ」。掘ってみると案外根が深いことを知った。
染井吉野の並木が尽きると、今度は枝垂れ桜の並木。艶やかでなよやか、色っぽいゾ。脇で爺さんと婆さんが畑を打つ。白い蝶がひらひらと舞う。日本の田舎の風景はいいなあ、大事にせんばいかんとですよ。放棄して荒地にするに忍びなかとですばい。
川を挟む小さな公園に到着。ここで昼飯にする。小さな子供たちを連れた若いお母さんたちが車座で食事中。少し離れた木陰に陣取って眺めていると、幼稚園ぐらいの女の子二人、奮然と蝶を追いかけ始めた。
敵(蝶)は引っかかないけども猿モノ、ひらりひらり、のらりくらり、簡単には捕まらない。女の子たちはどこまでも必死こいて走る走る。あんなに走り回って大丈夫なのか、公園の草地をあっちへ遥かに飛んでいき、こっちへどどどっと飛んでくる。可愛い。
公園を過ぎると、さながら花の郷の趣を呈する。桜はもとより、花桃、連翹、赤色、桃色、白、黄、目いっぱいの咲きよう、盛んなものだ。花が生き生きしているから、見栄えもことのほか美しい。思わず引き付けられる。
山が近くなる。やや、やっ!! 早くも若葉が山肌に萌えだしていではないか! 例年だと桜が終わってほっと一息つくころのはずなんだがなあ! 里は花、山は若葉、一緒くた。こんなことがあってもいいのか!? 今年の季節の移ろいはどげんなってますねん?
この薄緑の若葉が、もくもくと湧き出すように山肌を埋めて、様々な色合いの緑がパッチワークのように彩る案配がいいなあ! ほんの一瞬的な短い時間だけだが、それだからこそ、なによりと思う。命は花だけでなく、どれもこれもみな短い。
日の出町へ入る。川沿いに桜の並木が続き、川は透き通ってさらさら音立てて流れる。川っぷちの道を歩いてなによりなのは、車が来ないこと。第一静かだ。第二に轢き殺される恐れがない。第三に排気ガスを吸わなくていい。じゃが、今日は黄砂が飛んでいる!?
日の出町役場で大休憩。川で囲まれた敷地の土手にまた桜並木。試みにパノラマ撮影してみたが、ナンジャラホイ、みたいなもの。これじゃあ、なにがなんだか。カメラもバカだけど、ウデの方はよりをかけてバカだ。
日の出町役場から五日市線に向かう。初めての道を低い丘陵に入る。まだ歩いたことのない道に入ると、いつもなんだかワクワクする。小学生の女の子たちがわっと走って坂道を登ってきた。低い頂上を越える。
頂上を越えたら美しい道が目の前に展開した。両側の山すそを花に囲まれ、先の方が、どこへ通じるのか、緩やかに曲がっている。日影になって少し寂しく、そしてなにやら懐かしい風景だった。
五日市線、武蔵増戸駅に着いた。まだ時間があるので少し歩いて畑に出てみる。畑の石垣に腰を下ろして、向かい側の山をぼう~~っと眺める。様々な色の木が見える。黄砂で霞んではいるが、ずっとこの姿勢のまま、ここに座り続けていたいような気がした。
単線の淋しい駅に電車が来て、5時ころ帰宅、17㎞。
おみやげの野蒜は、どうやら捨てられてしまったらしい。
ビールもお預けらしいョ。